ストーブの前で犬が寝ている。
体を丸めたそのクッションに自分も顔をうずめ、犬の腹にぴったりくっつくようにしていると心臓の音と生きている体のあたたかさにつられあくびが出て。顔を上げると、目からこぼれ出た涙が犬の腹に染みて光っていた。
ああ、涙が腹毛(はらげ)に染みていく……
と感じた一瞬は、今私が書き記しておかないと(犬は何かを記録することなんてしないから)記憶から地球からなくなってしまうけれど、それを記録したからといって誰かの役に立つわけでもなく、私の体験は他者にとっては何の意味もない。やはり犬の腹をぬらした涙はわざわざ書きとめなくてもよかったものだ。
生きていくことそのものが…
Source : 社会 – 朝日新聞デジタル